多くの被害者がいますが、化学物質過敏症の研究は一向に進みません。具体的な対策や原因物質の究明が進まないのは、政治的要因、つまりメ-カーの圧力があるからではないかと高橋千鶴子衆議院議員は指摘しています。
出典:2022年12月7日|第4回鶴ヶ島市議会定例会石塚 節子議員の一般質問より
海外では化学物質過敏症のメカニズムは解明されつつあります。
参考:Considerations for the Diagnosis of Chemical Sensitivity
ですが、日本ではどうでしょうか。国会で取り上げられても、回答は何年経っても同じで、『メカニズムは未解明』のまま、全く進歩しておりません。
いわゆる化学物質過敏症については、そのような病態の存在自体や化学物質による影響の有無を含めて未解明の点が多いが、引き続き国際的な研究動向を把握するとともに、各省が連携してこれについての科学的知見を収集すべく調査研究を進め、その成果を公表するなど必要な普及啓発に努めてまいりたい。
2004年7月13日|衆議院議員井上和雄君提出化学物質過敏症等に関する質問に対する答弁書
2004年よりもずっと前から、そして現在まで、未解明と言われ続けています…
非常に闇が深いなと感じています。詳しく見ていきましょう。
多分野に渡る調査や研究・連携がない
あるメーカーの柔軟剤では、他のメーカーに比べて有害性の指摘されている香気成分が多く含まれていました。それは、日本消費者連盟がマイクロカプセル香害の被害者に「どんな商品を使うと症状が出るか」というアンケートの結果と一致するものでした。 これは予備的な実験による結果であるため、今後もきっちりとしたデータを取った上で報告する予定です。
ただし、きわめて微量な濃度であるため、その因果関係を科学的に解明すること難しいのが現状です。私のような環境化学者だけで因果関係を突き止めることは困難であり、医師を含めた幅広い研究者との共同研究が必要です。
プラスチックは大気も汚染する!大河内博教授に聞く環境問題①|ecotopia
化学物質過敏症に関する研究を進めるためには、医学・環境学・化学分野の専門家、および患者団体や環境保護団体との連携が重要です。他の病気との関連性や、化学物質過敏症の診断方法や治療法の開発、環境中の化学物質の影響や、化学物質過敏症を引き起こす可能性のある化学物質の特定、化学物質の構造や性質、毒性など、多くの分野や関係者の協力が必要となります。
日本においては研究分野自体が分断されており、狭い範囲のオーソリティーに追従しているのが問題で、従来の仮説を打ち破る研究が評価されません。非常に保守的で変化を好まない日本人の性質でもありますが、これでは若手や異分野からの議論はしにくいのです。
また、化学物質過敏症の診断に眼科神経学的検査がなされるのは日本のみで、世界の様子や比較も考慮されていません。まずは各省の連携、多面的な機序研究との連携が急務と考えます。
しかし、化学物質過敏症専門医は、増え続ける患者対応に追われ、研究も論文を書く時間も取りにくいのが現状です。
化学物質製造会社・製薬会社の経済的利害関係
いくつかの化学物質製造会社、特に殺虫剤の製造会社は、MCSの存在と原因に疑問を投げかける研究に資金を提供している。
Multiple chemical sensitivity
おそらくほとんどの医師は、製薬産業が化学産業の一部であり、これらの企業の多くが医薬品だけでなく農薬も製造していることを認識していないのではないかと思います。たとえば、CIBA-Geigy Corporation (現 Novartis) は広く使用されている除草剤アトラジンを製造しています。ノバルティスは有機リン系殺虫剤ダイアジノンの大手メーカーでもあります。イーライリリーはかつて、別の有機リン系殺虫剤であるクロルピリホスの最大メーカーであるダウエランコ(現在はダウ・アグロサイエンス)の一員でした。バイエルは、人気のあるピレスロイド系殺虫剤であるシフルトリンを製造しています。したがって、製薬会社もMCSに関する情報を遮断したり歪曲したりすることに経済的利害関係がある。
Understanding Patients with Multiple Chemical Sensitivity
化学物質による健康被害を増やし、その健康被害を和らげるための薬を販売する…これをマッチポンプと言わず、なんというでしょうか。
欧州ではイギリスのICIが、汎用品を中心とした化学事業を本体に残し、製薬・農薬などのスペシャリティ部門からゼネカを設立。ゼネカはさらに農薬部門を切り離し、1999年に北欧最大の医薬品メーカーであるアストラ(スウェーデン)と合併し、アストラゼネカとなりました。
【化学業界と「農薬」のこれから】第1回 化学産業と農薬|chematels
農薬などを手掛ける日本曹達は30日、動物向け医薬品の世界大手、米ゾエティスの日本法人(東京・渋谷)の農薬部門を買収すると発表した。買収額は非公表だが60億~70億円とみられる。2018年3月下旬までの買収完了を見込む。買収により製品数と販売先を拡充し、既存製品との相乗効果を狙う。
ゾエティスは13年に米製薬大手ファイザーの動物薬部門が独立して発足した。日本法人の農薬部門は松枯れの防除薬剤や果樹向け殺菌剤などの国内販売や輸出を手がけており、売上高は20億~30億円ほどとみられる。
日本曹達 旧ファイザー日本法人の農薬部門買収|日本経済新聞
化学業界が仕掛けている巧妙な偽情報キャンペーンによって、さらに大規模に自分たち(医師ら)がすでに騙されていることに気づいていない。このキャンペーンは、タバコ業界が自社製品の健康被害を否定するために行っているキャンペーンと似ています。
Understanding Patients with Multiple Chemical Sensitivity
利権まみれな世の中ですが、ここでも恐らくそうなのでしょう。化学物質過敏症の原因が殺虫剤などに含まれる有害物質だとバレてしまったら、この製造会社は経営難に陥ってしまいます。文献など、お金を出せば中身を変えることは容易なのですよね。
科学における不正行為
米国研究公正局(Office of Research Integrity, ORI)では1993-97年に、生命科学関係で約1000件の不正行為の申し立てを受け、218件を調査し76件に不正を確認したという。それ以後も増加は著しく、調査件数で みると、1998 年の68件から逐年急増して、2001 年には127件を数えている。
(中略)
不正行為として捏造(Fabrication:存在しないデータの作成)、改ざん(Falsification:データの変造、偽造)、盗用(Plagiarism:他人のアイデアやデータや研究成果を適切な引用なしで使用)(FFP)を問題とすることが多い(米国連邦政府など)。しかし、この他にも、不適切なオーサーシップ、重複発表、引用の不備・不正(先行例の無視・誤認や不適切な引用、新規性の詐称など)、研究過程における安全の不適切な管理、実験試料の誤った処理・管理、情報管理の誤りなどが存在する。また、研究グループ内の人間関係や研究成果の帰属に関する問題もある。
(中略)
誇大な表現、都合のよい誤解をさせる表現を用いること(レトリックの誘惑)等の不正があり得る。不適切な事実や材料を比較例にして、自身の結果を誇大に宣伝することは、商品の宣伝にしばしば見られることだが、学術論文でも目につくことである。これも倫理の欠如、論理の不備によるというべきで、その程度には、「論 文<研究報告書、特許<研究計画調書<新聞報道、環境・安全商品の広告」の傾向がある。センセーショナリズムを好むマスメディアが科学者、技術者の良心を歪めてしまう可能性にも留意すべきであろう。
科学における不正行為とその防止について|日本学術会議
論文撤回を監視するサイト(Retraction Watch)の発表によると、1年間に学術雑誌から撤回される論文は、500~600本にもおよびます。そして過去数十年間にその数は確実に増えてきており、2000年以前には年100本以下だった撤回数が、2014年には約1,000本に増加。2022年には4600本を超えています。
日本は論文の撤回数が世界一多い
名前 | 国籍 | 論文撤回数 | |
1位 | ヨアヒム・ボルト | ドイツ | 184 |
2位 | 藤井善隆 | 日本 | 183 |
3位 | 上嶋浩順 | 日本 | 123 |
4位 | 佐藤能啓 | 日本 | 112 |
5位 | アリ・ナザリ | イラン | 96 |
6位 | 岩本潤 | 日本 | 87 |
ヨアヒム・ボルト氏は2023年4月22日時点で撤回数は175でした。2ヶ月の間に何があったのでしょう…
下記のような解釈もあります。
悪質なネカト者が日本に多いと解釈する人がいるが、それは、全く見当違いである。日本の学術界、特に生命科学界が研究ネカトに無関心であること、また、日本の研究規範システムに大きな欠陥があること、を反映している。つまり、ネカトしても捕まらないので、長年、ネカトし続けてしまった結果なのだ。学術界、特に生命科学界、および、政府は改革に真剣に取り組むべきだ。
「撤回論文数」世界ランキング|白楽の研究者倫理
ネカトとは、「捏造(ねつぞう)」「改ざん(かいざん)」「盗用(とうよう)」の頭文字をまとめたもので、これら3つの不正行為のことを言います。
論文を書くには研究費が不可欠ですが、研究費の獲得は簡単なことではありません。何か効果があると仮説を立てたり、商品を売るために論文を出す、そのために研究費をもらえることがほとんどです。臨床試験には膨大な手間と時間がかかります。だからインチキも存在するのです。
研究費・研究時間の劣化
国立大学の法人化を機に研究者の研究費と研究時間が減ったことは政府も認めている。2017年版の科学技術白書は、日本の基礎科学の「三つの危機」の1つとして「研究費・研究時間の劣化」を挙げ、その原因として、運営費交付金などの基盤的経費の削減、競争的資金獲得の熾烈化を指摘した。交付金削減も競争的資金拡大も政府の政策なのに、まるで人ごとのような言いようだ。
国立大学の研究開発費総額は1990年代中葉からほとんど増加していない。文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)のデータによると、2000年を基点とした18年の主要各国の研究開発費は、物価変動の影響を排除した実質額で中国が11.8倍、韓国が4.3倍、アメリカが1.5倍に増加しているのに対し、日本はわずか1.3倍だ。物価換算した研究者1人当たりの研究費も、35年間全く増えていない。2017年にNISTEPが実施したアンケート調査では、研究者の83%が研究費が足りないと回答するありさまだ。研究時間も減っている。文科省の調査では、国立大学法人化以前と以後では大学研究者の研究時間が25%も減少し、研究者のほとんど全ては研究時間が足りないと嘆いている。
日本で研究不正がはびこり、ノーベル賞級研究が不可能である理由|Newsweek
日本石鹸洗剤工業会の存在
日本石鹸洗剤工業会とは次のような団体です。
●石鹸や洗剤などのメーカーと、それらの原料となる油脂製品のメーカーで構成される業界団体(生産者団体)です。
●会員は、脂肪酸、グリセリン、硬化油等の油脂製品、各種石鹸、洗剤、シャンプー、リンス等のトイレタリー商品の主要生産者で構成されています。
●油脂化学工業、石鹸・洗剤工業ならびに関連品工業等の健全な発展に資するため、必要な事項について業界の公正な意見をとりまとめ、協調の実をあげることが活動の目的です。
●扱う製品は、広く一般家庭でも事業場でも、毎日の暮らしや生活に欠かすことのできないものです。国民生活の清潔で健康的な生活向上に寄与していきます。
●歴史は、その源泉を遡れば、1926年の硬化油共販組合の設立に始まります。その長い経緯を踏まえ、会員相互の協力による業界発展と社会的・国際的使命を達成することをめざします。
JSDAの概要|日本石鹸洗剤工業会
石鹸や洗剤などのメーカーと、それらの原料となる油脂製品のメーカーで構成される生産者団体、といえども、組織自体に偏りがあり、香害という名の社会問題を引き起こしている合成洗剤が主流のメーカーが中心となっています。
研究が進まないのも、政府が規制に消極的なのも、これらと関係があるのだろうと思います。
さいごに
外国医学文献だと、強く連携し発病原因究明や対策、啓発に役立てています。日本では、化学物質過敏症のメカニズムがわからないと、それをいいことに企業はやりたい放題です。企業が儲からない研究は進むことができません。食い止めるには各所の連携、患者自らが立ち上がるしかないと感じます。こういった原因もあるかもしれないと頭に入れ、協力していきましょう。
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